marsona2003-09-24

はてなダイアリーが選ぶ名盤百選

有頂天 AISSLE(ASIN:B00005FP84)


すいませんお待たせしました。

kanokotoさんから引き継がせて頂くはてなダイアリーが選ぶ名盤百選
心の一枚を絞りきれず部屋中に散乱したCDやカセットテープを前に途方に暮れていたときに、ふと目に留まったアナログ盤。
あ、これがあった。


かつて有頂天という恐ろしく出鱈目かつカッコイイバンドがあったのをご存じでしょうか。

『AISSLE』(読みは『アイスル』)がリリースされたのは87年。かつて彼らがその代表格として祭り上げられたインディーズという言葉が、もはやひとつの産業や音楽の1ジャンルを表す言葉となってしまいつつあった時期でした。
ハイテンションかつヘビーな音で明るい終末を奏でた『PEACE』(ASIN:B00005FQ9L )に続いて発表されたこのアルバムは、前作とは打って変わって収録曲すべてがラブソングという、当時の有頂天を知る者にとっては驚かされつつも思わずニヤリとさせられるものでした。

40分たらずという比較的短い収録時間の中で、数十曲の候補曲の中から選ばれたという16曲はそれぞれが収まるべき場所に注意深く配置され、カラフルに、そして時にグロテスクにアイやコイを歌い上げています。


・カーテン (A FIRST HALF)
・MEANING OF LOVE
・FINE
・本当は彼が一番利巧なのかもしれない
・僕らはみんな意味がない
・スリーパー
・みつけ鳥 〜グリム童話より〜
・ダンス
・俗界探検隊
・KARADA
・インサート
・十進法パレエド
・隠れん坊
ナチュラル・カタストロフィー
・カーテン (A LATTER HALF)
・シュート・アップ


サウンドはひたすらニューウェーブかつテクノポップ
この作品でケラの持つポップさと毒がバンドのサウンドと高い次元で結晶しており、有頂天の音としてはここであるひとつの完成形を見せています。

当時ライブでは一貫してパンキッシュなアプローチを前面に押し出していた彼らですが、アルバムの音源ではそういった部分はわりと控えめに処理されており、一聴すると全体的に多少おとなしめな印象を持つのですが、やがて聴き込むにつれ、時おり顔を出す暴力的なサウンドとのコントラストや、アルバム全体に漂う不思議な高揚感みたいなものがうまく引き立てられる仕上がりになっていることに気付くでしょう。

思い起こしてみると当時のテクノ / ニューウェーブ界隈には、こういったスタジオワークの煮詰まり方とライブでのキレ具合の差が激しいバンドが結構あったような気がしますね。
シンセサイザーなどはモロにP-MODEL的な音が使われていたりして(当時キーボードとして在籍していた三浦俊一は元P-MODELのメンバーでもあり、ケラは音色を決める際に「あの曲のあの部分の音で」という指定の仕方をしていたらしい)、自分が影響を受けたものに対するちょっと屈折した愛情表現も垣間見えます。

一方その音に乗せられた歌詞はというと、聴くものの感情移入や、ありきたりの分析を拒むかのようなコトバたちが暴れ回っています。しかし、その一見無意味に思える言葉の羅列がふとレンズのピントが合うように意味を孕む瞬間があって、そこからある種の感情のようなものが見えかくれする錯覚が妙に気持ちいい。

このアルバムで彼らは、当時十代半ばの僕が日頃、英語訛りの日本語でラブソングを歌い上げるということに対して抱いていた漠然とした嫌悪感に、ナンセンスとノーセンスの間で響く『聴いていて恥ずかしくないラブソング群』という形で、明快かつ難解な答えを提示してくれました。


ヒトが今迄使ったコトバ
全部集めて 花火打ち上げる
「待つ」や「耐える」のシンプルまでが
夜空の彼方 パンとはじけた


アイだのコイだのユメだの達を
カタチもろとも壊せるならば
僕があのコに唄ったウタを
全部まとめて君にあげる


『シュート・アップ』より


特にアルバムのラストを飾るこの曲には、『AISSLE』でケラが伝えようとしていたメッセージが、彼らしい非常に不親切な形で込められてるように思えます。

その後ポップさと実験性がより多重人格的に高められつつもバンドは解散、ケラはザ・シンセサイザーズやロング・ヴァケーションと並行してケラリーノ・サンドロヴィッチとして劇団健康での活動を続け、現在に至ります。

いま思い返してみると、当時からケラの中ではバンドと劇団の活動というのは、単に手法が違うだけで実は等価なものだったのかもしれませんね。

デ・キリコ風のジャケットや、見開き部分に横たわる美しくもエロティックなイカの写真など凝ったアートワークも秀逸なこのアルバム、現在は入手困難なようですが、再発するなら80年代ブーム? の今しかないですよ。ね。




自分でも直前までまさかこれを選ぶとは思ってなかったのですが、書いてしまったのだから仕方がない、ということで何卒。
いろいろ聴き直してるうちにまた懐古モードになってしまいました・・。


次回はid:earlさんにリレーするよ!よろしこ!